ほうかいのじゅもん

写真を中心に、その他趣味のことなど、気ままに綴るブログです。

ここが変だよNPB撮影規程


マジでふざけんなよNPB、という記事です。(火の玉ストレート)


昨年9月2日に日本野球機構 (NPB) から「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」(以下、撮影規程)が突然示されました。観客におかしな制限を課そうという本撮影規程は、(私を含む)一部の野球ファンの間で取り沙汰され、やがて多くのファンに知られることとなりました。
このブログ記事では、この撮影規程がいかに粗悪な代物か、そしてこれを定めたNPBの決定がいかにおかしいかを、3つの観点から主張します。



制限の内容が目的に合致せず、杜撰である

具体例で見る規程の杜撰さ

本撮影規程が制限している内容に関しては、NPB公式による説明NHKの解説記事があるため、詳細はこれらに譲ります。
ここではまず、具体的な事例を6件とそのOK/NGを挙げることで、本撮影規程の制限のおかしさを述べます。なお、以下の具体例は、全て個人のファンの趣味による、非営利の行為であるとします。


具体例 (1)
球場の座席に到着したので、グラウンドの眺めの写真を撮り、「今日はここから!」とその場でSNSにアップする。
出来ません。

具体例 (2)
球場でお弁当を買い、「今日の球場メシは○○選手プロデュースグルメ!」というコメントと共にお弁当の写真をその場でSNSにアップする。
出来ません。

具体例 (3)
選手がタイムリーヒットを打った決定的瞬間を写真に収めたので、帰宅後にその写真をSNSにアップする。
出来ません。

具体例 (4)
選手がベンチで鼻毛を抜いている決定的瞬間を写真に収めたので、帰宅後にその写真をSNSにアップする。
(なぜか)OKです。

具体例(5)
選手がホームラン性の大きな打球を放ち、確信歩きをしている写真を、帰宅後にSNSにアップする。
出来ません。

具体例 (6)
ホームランを打った選手が、ホームインしている写真を、帰宅後にSNSにアップする。
(なぜか)OKです。


……いかがでしょうか。たったこれだけで、本撮影規程が「おかしい」と分かって頂けるのではないかと思います。

まず、具体例 (1), (2) は「その場で」アップしていることが規程の制限に引っ掛かります。規程では「試合中」を、「試合前の公式練習開始から試合後のヒーローインタビュー終了まで」と定めている [第2条 (2)] ため、事実上、観客が球場入りした瞬間から、試合観戦における写真・動画をSNSにアップすることは全て禁止されています [第3条 3 (4)]。

具体例 (3) は、ボールインプレイ中のプレーヤーを撮影したものであるため、試合後であろうとも禁止されています [第3条 3 (2)]。
しかし、具体例 (4) の鼻ホジ写真は、ボールデッド中の出来事の写真であるため、非営利かつ試合後であれば、SNSにアップしてOKとされています。

最後に、具体例 (5) と (6) は何が違うの?と思われるかもしれませんが、こちらもボールインプレイ中かボールデッド中かの違いです。ホームランは、打球がスタンドインした瞬間にボールデッドになります。そのため、いわゆる「確信歩き」はインプレイ中のため、試合後でもアップはできません。しかし、その数秒後、ボールがスタンドに届いた後の写真であれば、SNSにアップ可能です。

上記で述べた6つの具体例から分かる通り、この撮影規程は、具体的な事例の是非を丁寧に検討して定められたとは到底思えず、制限の内容があまりにも杜撰です。


撮影規程の目的は何か

ではそもそも、この規程は何のために定められたのでしょうか。
想像するに、その目的は次の2つが考えられます。

  • (a) 球場を利用した営利目的の無許可な配信を制限したい。
  • (b) 選手の肖像権を守りたい。

しかし、目的がこれらのものであると仮定しても、本撮影規程の制限は、明らかに目的に合致していません。

まず (a) の無許可営利配信については、NHKのニュース記事産経新聞の記事で「NPB担当者」への取材コメントとしても述べられており、本撮影規程の大きな目的のひとつであると想像されます。
確かに、昨今の動画配信やTwitter(自称X)でのインプレ目的の投稿には悪質なものも見られ、球場でのそれらの行為を制限したい、という目的には同意できます。
しかし、そうであるならば、制限は「営利目的の投稿」または「プレイ風景のリアルタイムでの投稿」を禁止対象にするだけで十分です。ところが今の規程では

  • 非営利、かつ、プレイ風景の非リアルタイムでの投稿
  • 非営利、かつ、プレイ風景ではない対象(今日はここから」や球場メシ等)のリアルタイムでの投稿

まで禁止されており、明らかに不必要で過剰な制限となっています。

次に、(b) 選手の肖像権も、規程の目的なのではないか、と想像できます。
しかし、これは具体例 (4) で述べた通り、ボールデッド中であれば選手の写真を(試合後に)SNSにアップしても良い、ということになっているおり、その目的には合致しない規程であることが分かります。
私は野球選手ではありませんが、選手からすれば、SNSにアップされるなら、ベンチで気を抜いて鼻ホジしている写真よりも、プレイ中のカッコイイ姿の写真の方が良い、と感じるのではないでしょうか。

なお、一部のファンからは「誤審の証拠となる写真・動画をアップできないようにして、審判を守ろうとしているのでは」という目的を想像する声も上がっていますが、私個人としては、この考えには否定的です。ファンがスタンドから撮影するレベルの写真・動画が、テレビ中継の映像を上回るほどの誤審の決定的証拠になるとは考えにくいと思います。
ただ、このような邪推をする声が上がってしまうほどに杜撰な規程設計である、とは言えると思います。

以上で述べたように、本撮影規程の制限は、想像され得る目的に対して、不必要に過剰であるか、カバーしきれていないものとなっており、目的ベースでルールを考える、という基本中の基本に則っていません
というか、そもそも、「お気持ちを想像」しないと「規程の目的」が分からない時点で、ルールとしてはカスです。プロ野球という興行においてファンは「客」であり、客の行動に制限を課すルールを制定しているのに、その目的をきちんと説明できていない時点で終わっています。


全てをチャラにする「ザル条項」の存在とそれが招いた混乱

ここまでで、規程による制限がいかにおかしいかを述べてきました。
しかし、この規程の最後の最後に、驚くべき条項が存在します。それは、

第3条 4 前三項において、以下の場合はこの限りではない。
(1) 主催者が承認した場合


………はぁ?


ここで言う「前三項」とは、前記具体例で説明してきた「試合中はいかなる写真・動画もアップできない」「インプレイ中の選手は試合後でもアップできない」「営利目的のものはどんな写真・どんなタイミングでもアップできない」等の制限を指します。それを「主催者が承認」すれば、全てチャラにできる、と言っているのです。
プロ野球のレギュラーシーズンおよびCSの試合主催者は、ホーム側の球団です。球団の一存次第で、ルールの根幹を引っくり返せる、というのは凄まじいザル条項であす。この撮影規程が何のためにあるのか、存在意義を疑いたくなります。

この条項があるために発生したのが、シーズン開始前に「ファンが各球団に対して、撮影ルールを個別に問い合わせる」という事態でした。そして球団によっては、問い合わせへの返答として、ファンに独自の制限緩和(非営利であればリアルタイムの写真アップもOK、等)を伝えたところもあったようです。
しかしこれは混乱を招きました。球団が公式にガイドライン等を出しているわけではなく、あくまでファン個人への個別回答の内容がSNSで拡散されることになったため、真偽不明の情報が大量に出回りました。「○○球団に問い合わせたんですけど、写真アップOKらしいです!」という情報が実は嘘だった、なんてことは普通にあり得るわけです。
このような混乱を招いたのは、本撮影規程に存在するザル条項、第3条 4 (1) が原因に他なりません。


主催者判断への不当かつ横暴な改善勧告

で、極めつけがこちらです。
日本ハム球団は、前記のザル条項を適用し、日ハム主催試合での一部の制限の緩和を、ファンからの問い合わせへの個別回答として表明していました。(公式にガイドライン等を出していたかどうかは未確認です)
ところが、2025年3月31日付の日ハム球団からのプレスリリースで、本件に関して、NPB事務局長より改善勧告があったと発表されました。
ザル条項を含む撮影規程を定めたのはNPBであり、日ハム球団は、何ら違反行為を伴わずに、その規程の条項を適用したに過ぎません。にも関わらず、強い立場を利用したNPB側からの勧告は、あまりにも不当かつ横暴な勧告であると考えます。
日ハム球団のプレスリリースからも、そのような怒りが滲み出ているように思えます。プレスリリースは、

当球団は、NPBとの間で規程の解釈について確認し、意見調整してきましたが、引き続き、本件に関しては、NPBならびに関係各所と規程の在り方について協議したいと考えています。

という一文で結ばれており、日ハム球団側もまだ折れてはいません。今後どのようになるか、NPB側の対応を注視します。

このように、NPB側が「自分でルールを定めておきながら、それに従って行動した球団を不当に戒める」という行為に及んでいることは、本撮影規程が、よく考えもせずに作られた、粗雑なものであることを如実に表していると言えます。


最後に

私が求めることを端的に述べると、それは本撮影規程の白紙撤回です。
これまで述べてきたように、本撮影規程は、ファンの趣味を不必要かつ過剰に制限し、何を目的にしているかも分からず、ザル条項まで存在し、オマケにルールを定めた側がルールのことをよく分かっていないらしい、という、あまりにも出来が悪いルールです。今すぐに撤回して頂きたいと思います。

本撮影規程に関しては、日本プロ野球選手会が3月21日に見直しを要望しました(スポニチ記事)。NPBからの返答は「検討します」だったとのこと。(ホントかよ?)
NHKの記事では専門家(徳力基彦氏)のコメントとして「どうすればファンが気持ちよく撮影も投稿もできて、逆に悪質なものを取り締まれるようになるかを今回のルールを運用しながらアップデートしていくことが重要」と述べており、また産経新聞の記事では専門家(山口真一准教授)のコメントとして「国際的に見ても厳しい規程。(中略)特に若いSNS世代のファン層を獲得しにくくなるのではないか」と述べています。
Twitter上でのファンのコメントを見ても、本規程を肯定する意見は皆無に等しく、賛否両論ではなく、「零賛十否」の状況です。

NPBは、自分たちの過ちを素直に認め、本撮影規程の撤回と、目的ベースでの制限事項の再設計を、今すぐに開始するべきと考えます。

ここまで長文にお付き合い頂いた皆さん、ありがとうございました。
おわり。